前回取り上げた、肩関節インピンジメント症候群の予防法やリハビリテーションの方法を見ていきましょう。今回は、腕を無理なく大きく動かせる基本要素、関節可動域を拡大するエクササイズを紹介します。投球時に関節部だけを意識しがちですが、優秀な投手は肩甲骨も含めた肩周り全体をうまく活用してしなりを生み出しています。
関節可動域(動かせる範囲)が少ないと、動きに無理が生じてインピンジメントしてしまう可能性があります。
肩関節は動きの自由度が高いため、様々な位置で関節可動域を確保する必要があります。特に上腕骨の動き(肩甲上腕関節)と、肩甲骨の動き(肩甲胸郭関節)はしっかりと確保しておきましょう。
エクササイズを行う際は、以下の3つの原則を守って各15秒程度保持します。
ここでは、無理なく大きく腕を動かす為に重要な肩の筋肉・関節を強化する5つのストレッチをご紹介します。
1.僧帽筋中部、菱形筋肉群のストレッチ
この筋群をストレッチすることで、腕の根元である肩甲骨が大きく動くようになり、インピンジメントしにくくなります。
※左側を伸ばす場合
(1)左肩を右手で持つ。
(2)左肩を前方に引っ張り出しながら背中を丸め、体を右に捻る。
2.三角筋のストレッチ
ストレッチすることで三角肉の脱力を促し、上腕骨が上方にズレてインピンジメントすることを防ぎます。
※右側を伸ばす場合
左脚だけをしゃがんだ状態にし、左膝上に右上腕を乗せて、上半身の体重をかける。 このとき体が左に開かないようにする。
3.肩関節外旋筋群(肩関節後方)のストレッチ
肩関節の後方は、肩関節の外傷・障害後や、投球動作を多用する場合、特に硬くなりやすい部位です。肩関節は自由度の高い関節のため、腕を下垂させたファーストポジション、脇を90°に開いたセカンドポジション、前へならえをしたサードポジションでストレッチを行います。このストレッチは、インピンジメントによる疼痛を誘発する可能性があるため、痛みに応じて慎重に実施してください。問題がない側の肩でまず実施し、問題のないストレッチ感を確かめて行います。
ファーストポジション
セカンドポジション
サードポジション
4.肩関節内旋筋群(肩関節前方)のストレッチ
この筋群のストレッチは、肩関節へのストレスを考慮してファーストポジションで行ってください。セカンドポジションでのストレッチは、特に肩関節前方脱臼の既往ある場合などは再受傷のリスクとなります。
腕を体側に密着させ、壁に手を当てる。この状態から体全体を捻る。
反対の手で肘の上を押さえることで回転軸の上腕骨が固定され、
しっかりと伸ばすことができる。
5.胸椎伸展モビライゼーション
背中が丸まると、腕の根元の肩甲骨が前に出て下方に下るため、インピンジメントしないための肩甲骨の動きを出しにくくなります。背中という肩甲骨の土台を反らせることで、肩甲骨は動きやすくなり、インピンジメントしにくくなります。
(1)フラットベンチに仰向けになり、端に肩甲骨より下の部分が当たるようにする。両手でベンチ台を把持する。
(2)お尻を床に降ろしていくことで胸を反らす。このとき腰が痛い場合は、腹筋群に力を入れておく。
(3)ベンチ台にあたる位置を上下にずらすことで、様々な部分を伸ばすことができる。下にしすぎると腰を傷めるので注意が必要。
注意! 脇を開くと肩関節前方脱臼の危険性が高まるため、脇は閉じておく。
いかがでしょうか。体の各部の名称等聞きなれない単語も多く難しく感じる方もいるかもしれませんが、要は肩全体の柔軟性を確保して、特定の場所に負担をかけ過ぎない事です。日々のストレッチング、試合前後のケアがそれを可能にします。毎日トレーニングを行って専門的に取り組むわけではない我々草野球選手、まだ体が出来上がっているわけではない少年野球選手にとってはぜひとも理解して実践するクセを付けておきたいものです。長く草野球を、健やかに少年野球を楽しむために、自身やお子さんの体のケアを心がけていきましょう!
野球で特徴的な肩やひじの痛み、嫌なものです。野球というスポーツにとっては最も基本的な動作の一つですから、ここをケガしてしまうと心からプレーを楽しめませんよね。
一旦治っても再発するケースも少なくなく、いつ全力投球していいのか、悩ましいところでもあります。草野球や少年野球ではプレーは主に週末のみ。平日にあまり体を動かさない環境にあるとなおさら、完治したのかどうかの判断にも迷いが生じます。
この言葉は聞いた事がある方も多いと思います。
ケガの程度にもよりますが、2〜3日はまず応急処置としてこのRICEに沿った対応を心がけてください。もちろん、ひどいようなら病院で診察してもらいましょう。
内出血が止まり炎症がひいたら本格的なリハビリの開始です。運動を始めるタイミングが難しいと思いますが、わかりやすい目安としては患部にゆっくり5秒負荷をかけてみて、その5秒後にまだ痛みが残るかどうか。
痛みを感じるようであればもう少し安静にしましょう。その痛みが無くなったら、ケガで硬くなった関節や筋肉の柔軟性を取り戻す事を考えます。
傷めて安静期間を置いた筋肉は伸縮性に乏しくなっている事もあり関節の可動域は狭くなっています。まずはストレッチで。痛みを感じない程度に徐々に負荷をかけながら、関節のスムーズな動きを取り戻しましょう。
草野球では平日の間にやるべきケア、って事になるでしょうか。週末に向けて、ケガで硬くなった筋肉や関節をしっかりほぐして動けるようにしておく。これは最低限やっておきたいことですよね。
柔軟性がある程度取り戻せたら、筋力の回復です。ケガをした組織は、修復はされていても、筋力は確実に低下しています。リハビリの段階で知っておくといい比較的安全な筋力トレーニングがあります。
アイソメトリックトレーニングです。
アイソメトリックトレーニングとは、筋の長さを変えないで張力を発揮する収縮方法でトレーニングをする事です。簡単に言うと、関節を動かさずに筋肉に負荷をかける事です。壁に正対して、ぐううっと壁を押すと、体は動きませんが筋肉には確実に負荷がかかりますよね。それがアイソメトリックトレーニングです。
例えば肩を傷めた場合は、大胸筋・三角筋・上腕二頭筋あたりが弱くなっていると思われます。
などなどいろんなパターンが考えられますよね。
ポイントは、息を止めない事。鍛えている筋肉を意識して行う事です。電車の中で吊り皮をぐぐぐっと下に引っ張って10秒とか、やろうと思えば普段の生活の中でもいろいろできます。普段のちょっとした心がけが、週末の草野球でのパフォーマンスに影響します。
インナーマッスルも重要ですね。負荷の軽いゴムなどを用いたトレーニングが有効です。意識の高い選手はこのあたりでしっかり差をつけてます。
可動域が回復し、筋力が戻ってきたら、いよいよこれらの組織を強調させて野球の動きを思い出させます。グランドでのリハビリ、最終段階ですね。
軽いランニング、近距離でのキャッチボール、トスバッティング・・・痛みを感じない事を確認しながら徐々に実践的な動きに慣れていきましょう。もしここで再び痛みを感じるようなら、もうしばらくは前段階のリハビリが必要ですね。草野球・少年野球の試合のチャンスは週1回。無理をすれば数週間を棒に振ってしまいます。自らのコンディションをしっかり把握して、正しい判断でプレーしましょう。特に中高年の草野球オヤジにとって大きなケガは選手生命の危機に繋がります。無理せず、楽しくいきましょう。
前回、主に肩やひじのケガに対するリハビリテーションのお話をしました。今回は、同じようにケガの多い脚部のリハビリのやり方をご紹介したいと思います。
草野球に限らず、捻挫や肉離れといった脚部のケガは多いですよね。関節のケガは靭帯を傷めている事が多く、基本的には靭帯そのものは元通りには回復しませんから、筋肉でその働きをカバーする必要があります。筋肉強化を怠ると、同じようなケガを繰り返しやすいカラダになってしまいます。ケガを防止する目的で行う筋肉トレーニングも必要なのです。
リハビリの手順は前回ご紹介した通りです。基本的な考え方は同じです。
今回は部位を脚部に絞って手順2もしくは3におけるトレーニングの具体的な方法をいくつかご紹介しましょう。
タオルを使ったアイソメトリックトレーニング
座った姿勢で足首を90℃立て、タオル等で足先を引っ掛けて、この状態をキープしたまま足首を伸ばす方向に力を入れます。膝は伸びていなくてもOKです。足首周りの筋肉を意識して、息を止めずにゆっくり鍛えましょう。
ゴムチューブを使ったトレーニング
内反捻挫の場合外側の靭帯が伸びてしまっている事が多く、普通に歩いていても足が内側に傾いて捻挫しやすい状態に陥ったりします。これを防ぐために足首周りの筋肉をしっかり鍛える必要があります。伸ばしたり、捻ったり、開いたり…いろいろな角度で軽い負荷をかけながら運動する事で足首の細かい複雑な筋肉群をバランスよく鍛えることができます。
また、ゴム等無くてもいろいろなトレーニングの仕方があります。写真を参考に試してみてください。
肉離れ等で柔軟性を失った筋肉は、そのままではまた断裂の危険があります。古くなって硬くなったゴムチューブのように伸ばした時に突然切れてしまうわけです。ですので、慎重に少しずつ筋肉を伸ばしていく事を意識しましょう。
臀部から背筋周りにかけて、しっかりカラダ作りをしておけば体幹の安定したいい動きができるようになります。
・座位での前屈@:背筋を伸ばしてゆっくりと。背中が丸まってしまってはNGです。
・座位での前屈A:大腿部内側・外側それぞれ意識してじっくりと。
・うつぶせ・仰向けの状態から:背筋から大腿部・ふくらはぎと意識をしながら。
・身体後面の筋トレ兼,立位でのバランス保持運動:様々な筋肉をコントロールできれば姿勢を維持できます。
いかがでしょうか。怪我している場所・筋肉が自覚できてさえいれば、そこを意識したストレッチや筋力強化の方法は無数にあると言っていいでしょう。工夫をして根気よく続けると、筋肉が柔軟性を取り戻していくのを実感できると思いますよ。
前回お話したように、こういったリハビリを経て徐々に実戦に近い動きで体を動かして頂きたいのですが、きっと試合となると皆さんそうもいかないですよね。貴重な週末の草野球、思わず全力でプレーしてしまうのではないでしょうか。
そんな時、ケガの再発を防ぐのに効果的なアイテムの一つがテーピングです。テーピングについては、また機会を見て解説しますね。